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四十三日目
2021.1.7(木)
行程:
ホテルセントラル西条→番外札所十二番『延命寺』→遍路小屋しんきん庵秋桜



【本当に偉くてすごくてお大師様の教えを踏襲しているのは、お接待をする人です……】
 
昨晩うどん居酒屋で食べたくじらは実にうまかった。土地のものを食うのは実にいいものである。とくに愛媛は菓子類が豊富だ。しょうゆもち(ただし一六タルトのはおいしくない)となんだがとても固い焼き菓子が非常においしい。さて、6:20にホテルを出発する。
 東に行き山を越えれば徳島をはさんでいよいよ香川入りである。
 私が使っている地図(四国遍路ひとり歩き同行二人)は進行方向が右から左のページへ進むようになっており東西南北がころころ変わるのでいつも西に進んでいるような気分になっている。そして土地勘がないので脳内にある日本地図上のどこに自分がいるのかイマイチというかさっぱりわからない。なので今日も東ではなく西へむかって進んでいる感覚である。とはいえ太陽は進行方向からのぼってくる。やはり東なのである。
 この日記をつけている今現在はグーグルマップを参照できるので、「ああ、私こんなとこ歩いてたんだ」と理解できている。

 さて、国道11号を道なりに進む。空模様は怪しい。寒さも随分こたえてきた。レインウェアを着こむ。進む先々のコンビニに立ち寄る。腹が減ったらスイーツを何かしら買う。おかげで今年のコンビニスイーツには詳しくなった。
 コンビニは非常に便利だ。飯も食えるしトイレもあるし充電もできるしゴミも捨てられる。こんな便利なものが各地にあるのだからお遍路旅はなんとも気楽だ。
 さて、そうこうしているうちに厚ぼったい雲から水が降ってくる。ザックにレインカバーをかける。山々には雪がちらついているようだ。雨に濡れる道中も地図に従い国道を離れる。
 とぼとぼ進み、そろそろ腹が減ったなあという頃に『弘法の館』という建物が見えてきた。倉庫にペンキを塗ったような外見だ。今までもこのような建物は目にしてきた。おそらくお接待所というやつだ。平常ならお遍路さんを迎えるべく開いているのだろうが、今は感染症が猛威を振るっておるさなか。開いているところなど一か所しか出会っていない。ここもどうせ閉まっているのだろう……と扉を引いたところ、開いた。
 中は非常に美しく清掃されている。どこかのお宅の応接間かと見まがう様相だ。壁には一面、訪れた人が置いて行ったであろうお札が貼られており、中にはお礼のお手紙も貼られていた。清潔なベッドも用意されていたが基本的に宿泊はノーらしい。
 応接間には机といすが置かれており、机にはノートがある。目を通すと久万で出会ったコーヒー屋さんも今日ここを通過していったようだ。私が雪山でぐずぐずしている間にとっくに先に進んでいたらしい。
 さて、ザックをおろし電子レンジでおにぎりを温める。あたたかいものを食べられるのは単純にうれしい。先客に習い私もノートにお礼の言葉を添え札を置いて館を出た。つかの間の青空が見えた。
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【今日も風呂】
 先ほど分かれたはずの国道に再び舞い戻る。延命寺に到着したころには再び雨は気にならなくなったが風が強くなってきた。延命寺のあずまやにザックを置いて寺を訪問する。このあずまやも宿泊しようと思えばできないこともなさそうだ。しかし住宅地の近くというのは気を遣う。珠をいただき辞する。「これから三角寺と仙龍寺ですか、明日になさるんですか、雪だと坂怖いですものね」みたいな会話をした気がする。今から寺に行くとか坂で滑るとか会話内容が理解に苦しむあたり、おそらく車遍路だと思われていたのだろう。
 次に三福寺に行くつもりであったがいったいどこをどう見逃したのか、曲がるのを忘れて直進し通り過ぎてしまったためもう戻らず国道を東進した。時間的にまだまだ余裕はあるのだが次は山登りが控えているし寒いしそろそろ歩くのも飽きてきている。今日は山麓の伊予三島の町で一泊することとする。
 でかい道路のでかい歩道橋をあがり、見下ろした先にそのヘンロ小屋はあった。まるでバス停だ。ヘンロ小屋の周りは駐車場かバスの転回場にしか見えない。そしてやはり風がすごい。すっかり体が冷えてしまった。ザックをヘンロ小屋に放置して風呂へ行く。『湯あそび広場三島乃湯』というところだ。二日連続で風呂に入れるなんて幸せだ。ついでに充電もして飯も食う。今日は鍋焼きうどんだ。ほんとうに体があたたまる。

 すっかり暗くなりヘンロ小屋に帰ってテントを張ろうとする。……するとこんなに真っ暗なのに男性が一人やってきた。なんでもテント無しで遍路しているらしい。仕方なく小屋内を譲り私は外にテントを張る。ものすごい風に四苦八苦しながら張り終える。男性が「手伝いましょうか」と言ってくれているので甘えればよかったのだが、つい癖で「大丈夫です!」などと言ってしまう。人とかかわることを億劫がる引っ込み思案の性格はどうともならない。
 男性は小屋の中にマットをひろげて寝袋を構えなかなか居心地よさそうだ。私もなんとか我が家を建ててくつろぐことにする。

 さて、明日は三角寺と仙龍寺である。山の中を歩くようだがお遍路での山登りなど慣れたものである。ゆっくり体を休めて明日に備えることとする。
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【歩いた距離、歩数】
44.02km 64,238歩

【つかったお金】
ごはん 3,319円
お賽銭 1円
宿   2,755円
風呂  600円

三十九日目
2021.1.3(日)
行程:
道の駅風和里→青木地蔵→五十四番延命寺→五十五番南光坊→別宮大山祇神社→五十六番泰山寺→龍泉寺→五十七番栄福寺→五十八番仙遊寺


 夜明けはすっかり遅くなった。野宿遍路としてはありがたいことだ。
 暗闇の中でラーメンとすきやきを食う。うまい。ラジオ体操をしてテントを片付けて610、出発である。
 国道196号を歩く。辺りは薄暗く、走り抜ける車もライトをつけている。

 海岸沿いを歩いて行き遍照院にたちより変質者を見る目で見られ(ほとんどの地元の人は番外霊場というものを知らないのでお遍路さんが来るとは思っていない)立ち並ぶ瓦屋を見送り四国石油の工場に入っていくタンクローリーを見送る。工場のわきから裏手に入り、野宿するとキリシタンの霊を見ると噂の『青木地蔵』に立ち寄る。
 青木地蔵には通夜堂があるが、ルールを守らない一部お遍路さんのために今は使用禁止となっている。
 海岸沿いから街中へと入っていきお遍路の舞台は今治市になる。

 五十四番札所『延命寺』にたどり着く。
 延命寺はもともと『近見山』の頂上にあったらしい。番外霊場や奥の院も訪問している私としては訪れるべきなのだが面倒になって訪問しなかった。
 延命寺の参拝を終える。ザックは重たいので境内のベンチにデポしていた。ザックを取りに戻るとザックの上に伊藤園の紙パックのジュースが置いてある。これは落とし物や忘れ物ではなくて、多分、お接待なんだろう。辺りを見てみると駐車場に伊藤園の自販機があった。わざわざ買ってきてくださったのだ。デポしたザックの上に置いておくなんて粋なことをしてくださる。ありがたくいただく。

 延命寺を辞し東へ進む。四国といえば北側に角が二本生えた形をしている。ここは四国の西側の角のさきっちょだ。ようやっと愛媛県の北部まで来たのだ。見える海は太平洋から瀬戸内海に変わったのだ。

 五十五番『南光坊』に到着する。参拝をすませ境内のベンチでパンをかじっていると、隣でヨーグルトを食べているおじいさんに声をかけられる。
「私はお遍路さんに出会ったらジュースをおごることにしているんです」
と、自動販売機で缶コーヒーをごちそうになる。
 そこで20分ほどしっぽり話し込む。
 昨日出会ったお遍路さんは鎌大師で宿泊されたらしいですよ、と情報をもらう。はて、鎌大師のヘンロ小屋は野宿禁止だったはずだが……?と思ったがどうもお堂の方に泊めてもらえるらしい。通夜堂ということだ。鎌大師は知る人ぞ知る有名お堂らしく、『てづかみょうけん』さんという超有名人物の逸話があるらしい。帰宅後にググったら『手束妙絹』さんという方がヒットした。

 今治市街を抜けて道路を進み五十六番『泰山寺』に到着する。奥の院『龍泉寺』に参拝し寺を辞する。
 五十七番『栄福寺』を参拝する。寺を辞する。
 さて、そろそろいい時間である。五十八番『仙遊寺』まで行くかそれまでにいい場所があれば幕営準備をするか選択どころである。
 16年前のガイドブックを見て、犬塚池の横に書いてあるWCマーク、ここにテントを張れないかとあたりをつけていた。実際にたどり着いてみると工事現場にあるような簡易トイレがひとつたっていて、その周りは草むらと斜面。とても幕営できるような場所ではなかったし、トイレも利用したいと思えるようなものではなかった。
 さて、ここから先で幕営予定地は仙遊寺の通夜堂か仙遊寺直下にあるらしい休憩所である。

 どうしようかと悩みながらもガシガシ進んで五十八番札所『仙遊寺』まで来てしまった。
 山門をくぐりキツい坂を汗だくになって登る。飼い犬にほえられまがらたどり着いた境内では子供が走り回っている。お寺の住人だ。参拝をすませて納経所で泊めてもらえるか尋ねると、髭を生やしたシブいおじいさんは最初こそいぶかっていて返答も険があったものの、だんだん態度が軟化していき、最終的には優しく猫なで声と笑顔で対応してくれた。
 普段はお風呂に入れるそうだが今日はお風呂の準備ができないらしく何度もすみませんと言われた。こちらとしてはお風呂があることを想定していないので何も謝られるいわれはない。
 通夜堂に連れて行ってもらい使い方や水、電気、寝床の説明を受けたが、その後男性の歩き遍路さんがやってきて、通夜堂は男性が、私は僧房の納屋に通された。納屋はなんとエアコン完備だ。無料で宿泊させてもらうのにエアコンを使用するなど恐れ多い。エアコンは使わないでおこう。と考えていたはずだが結局寒さに負けてエアコンをつけてしまった。
 仙遊寺境内からの眺めはとてもいい。夜景も良いことだろうと夜中に外に出ると何やら人の気配。こんばんは、と声をかけられたので私もこんばんはと返す。僧房に戻ると玄関にはチェーンスパイクの箱、登山リュックが置かれている。さっきまでなかった靴は明らかに登山用である。
 トイレに行って帰って来たときに荷物の持ち主が玄関にいたので思わず声をかけてしまった。
 あの、山に行かれてたんですか……?と尋ねると彼女は嬉しそうに答えてくれた。
 彼女が行っていた山は石鎚山で、人生はじめての雪山登山をしてきたとのことだ。今後も雪山に行きたいのでまずはチェーンスパイクを購入したとのことだ。
 今日の石鎚山の写真を見せてもらった。石鎚山は相変わらず雪の白と空の青のコントラストで輝いている。
 おそらく彼女は仙遊寺で修業中のお坊さんで、お遍路さんを通夜堂へ案内することは彼女の役割なのだろう。ついでに言えば温泉を準備するのも彼女の仕事。だから今日は温泉が準備できなかったのだ。貴重なお休みを人生初の雪山でガッチリ楽しんできたのならこんな幸いなことはない。
 明日も朝早くからお勤めだろうに、山登りでお疲れのところをお引止めして申し訳ないが少しお話をして寝床に戻った。
 寝床に戻ると彼女は部屋にやってきてみかんを3個くれた。お礼を言ってありがたくいただく。
 その夜は部屋の中でパンときんぴらごぼうとみかんをかじり、板の間にたたみをしいて持参の寝袋に入って寝た。たくさん歩いて疲れた体は寒さなどものともせずすぐに眠りに落ちて行った。


【歩いた距離、歩数】
40.83km
59,315歩

【使ったお金】
ごはん 2,068円
お賽銭 6円

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