生存確認


こめの旅日記。

タグ:宇和

三十一日目
2020.12.26(土)
行程:パークホテル宇和→鳥坂峠→松下庵→大洲市街地→肱川河川敷



 7:30、ホテルを出発する。
 今日の出発は非常に遅い。というのも、歩く距離がとても短いからだ。もっと進みたいのだが進めないのである。
 次の目的地は別格七番札所『金山出石寺(しゅっせきじ)』だ。このお寺、山のてっぺんにある。しかも登山道までの道がまあまあ長い。寺の境内や山の中で寝るなら話は別だが、篠山神社を思い浮かべるに、山の上は寒いに違いない。そうえると野営はふもとで行いたい。
 と、いうことで今日は寺のふもとである大洲市街地で寝て明日、寺へ向かうこととした。
 ちなみに金山出石寺はお遍路到達難関場所ナンバースリーである。ナンバーツー、ナンバーワンはまだまだ先だ。


【鳥坂峠を越える】
 国道56号ぞいに北へ。国道と並行したり国道に合流したりして遍路道を北上する。4kmほど歩くと右手に関地池と出会う。関地池の公園は野宿適地だ。
 さらに進むと分岐路がある。右が鳥坂(とさか)隧道を抜ける道。左が鳥坂峠を越える道だ。
 分岐路にはヘンロ小屋が建つ。ヘンロ小屋の壁には小学生が描いた家族の似顔絵が飾られている。似顔絵の横には子供から家族へコメントが書かれていて、コメントの隣に家族から子供への返事が書かれている。子供の真面目な言葉に対して家族が大喜利チックに返答していて笑いを誘う。

 ヘンロ小屋を出ると歩き遍路が一人トンネルを目指して歩いて行くところだった。
 いや、トンネルを歩くのならば歩き遍路ではない。歩き疲れた遍路だ。ねぎらってあげよう。決して軽蔑してはいけない。
 かたやホテルのお風呂でしっかり疲れを抜いて元気な歩き遍路こと私は鳥坂峠へ向かう。左折し脇道へ入る。あずまやが二つほどあり野宿適地である。

 番所跡に出会う。藩政時代に人物・物資の不当流出を防ぐために大洲藩が建設した番所だ。かつて旅人が通行する際には身分証明書、往来手形の提示を求められ厳しい取り締まりを受けた。四国八十八か所巡礼などの巡礼者については比較的楽に番所を通行できたそうだ。その点は南予遍路道の中道とはあつかいが雲泥の差である。
 番所跡のすぐ脇道からが峠道だ。高知県の峠道を歩いた遍路にとって愛媛の峠道など難所でもなんでもない。気持ちいい日差しとフィトンチッドが充満してそうな空気の中、のんびり峠を歩く。登り詰めた峠には仏像が建つ。
 さらに道沿いに進んでいくとトタン屋根に壁のない建物が見える。看板を見ると日天月天様と書いてある。
 御神体は山から切り出されたと考えられている半円形をした石で、梵字が刻まれているそうだ。祠は粗雑な扱いだが、境内にはなにやら雰囲気がある。何かいる感じがする。入り口付近に何かいる。
 せっかく来たので札を置いて行く。それから小便を足す。神様はいいよって言ってくれたので……。

 峠をおりて民家の間を抜けていくと番外霊場『札掛大師堂、佛陀懸寺(松下庵)』に出会う。ガイドブックに記される大師堂ではあるが、ぼろぼろである。門構えからして屋根には草が生えているし、鐘を打つ棒がぶらさがっているが鐘はない。門をくぐってみると大師堂の中はごみ屋敷の様相を呈している。

 遍路看板に従って先へ。松山自動車道ぞいの休憩所『ポケットパーク札掛』は野宿適地だ。
 国道56号ぞいに下りていくと大洲の街に出会う。


【大洲】
 広い河原は愛媛県大洲名物、芋炊き会場だ。芋煮は山形の専売特許ではない。まあ、芋なんてどこでもとれるしな……。
 肱川(ひじかわ)ぞいに歩いて行くと『亀山公園』という景勝地に出会う。トイレの脇をちょこっと登るとあずまやがあり、野宿適地である。
 公園のすぐ横には『臥龍の湯』という温泉がある。お遍路さんは100円引きのサービスが受けられる。
 『町の駅大洲』で大洲市郷土菓子『志ぐれ』を食う。あずきとうるち米を使った蒸し菓子だ。見た目はようかんみたいなかんじだ。うまい。
 街の駅も野宿できそうなかんじがするが適地かどうかはちょっと考える。もし私がこの近辺で野営するなら亀山公園を選ぶだろう。
 大洲観光を続ける。
 人気だったらしい朝ドラ『おはなはん』のロケ地を訪れたり、『富士山(とみずやま)』を眺めたりしてJR大洲駅に到着する。時間はまだ13:00。暇である。駅前のベンチに腰掛けおにぎり、パン、などをかじる。家に定時連絡をする。
 まだまだ時間がある。駅のコインロッカーに荷物をあずけ、商業施設『アクトピア大洲』の中のゲームセンターで時間をつぶす。シンクロニカで東方曲をプレイする。背景が実に凝っているがプレイ中は見る余裕が無いのが残念……と思っていたらプレイ後にスクリーンショットを閲覧することができた。粋なシステムだ。ケロ9をプレイすると『そこに誰もいませんよ』がスクショになる。スクイズのあのシーン再現だ。

 商業施設で時間をつぶし、日が暮れてからコインロッカーの荷物を回収する。どこに幕営しようかとうろうろする。
 大洲駅近くの橋の下で幕営する予定だったのだが工事中で橋には近づけなかった。工事現場立入禁止区間ギリギリの場所にテントを張る。ここならば朝に犬の散歩に来る人からも目立つまい。
 テントを張り終え飯を食い終え風呂に向かう。複雑な住宅路をぬけると一部の人には有名らしいレトロ銭湯、『よしの湯』に着く。
 おばあちゃんにお金を渡して女湯へ。先客は2名程度。銭湯なのでシャンプーやせっけんは無い。タオル片手に水道で体をごしごし洗い湯舟へ。硫黄の香りがする黄色い湯がある。温泉が湧いているのかと思ったがあとでネットで調べたら硫黄の香りがする入浴剤ではないかとのことだった。確かにどこにも温泉という表示はなかった。
 ドライヤーは男湯にある。女湯からは手を伸ばして10円玉を入れる。するとゆる~い風が数分出てくる。これで乾かしきるのはなかなか厳しい。

 昨日に引き続き入浴できて心も体もさっぱりだ。河川敷へ戻ると工事現場に立入り三脚を立てている人の姿が見える。工事中の橋の写真を撮影しているらしい。立入禁止区間に入っている人がまさか私を通報するはずもあるまい。
 写真撮影の様子をテントの中から眺めつつ、飽きたらシュラフにもぐりこみ眠りに落ちた。


歩いた距離、歩数
21.79km 31,797歩

つかったお金
ごはん 1,499円
お賽銭 2円
お風呂 370円
コインロッカ 300円
ゲーセン   300円

二十九日目
2020.12.24(木)
行程:道の駅津島→別格六番札所龍光院→四十一番札所龍光寺→四十二番札所佛木寺→游の里ユートビア宇和



【別格札所 龍光院】
 起床。クッカーでちくわうどんを作る。カット野菜、みかんをいただいて朝食完了。真っ暗な中、テントを畳んで6:20出発である。

 JR宇和島駅へ向かって北上。駅前を右折すると住宅地の中に突如石段が現れる。別格六番龍光院だ。階段をのぼりつめた境内からは宇和島市街が一望できる。
 納経所は7時にならないと営業開始しない。7時を待ちつつ境内をぶらぶらする。
 朝からの小雨は無視できないほどの粒大となってきた。ザックカバーをつけ、ショルダーバッグをレインウェアの中に入れる。時間になり納経所へ向かう。納経所で対応していただいた女性は「今日は雨で大変ですね、お気をつけて」と労いの言葉をかけてくださった。こちらこそ朝早くにすみません、と珠をいただく。
 四国の寺の人は大抵横柄なのだが、龍光院の人は優しかった。


【龍光寺・佛木寺】
 国道320号から県道57号に合流しつつ北上する。三間(みま)の集落へやってくる。遍路道をそれて道の駅みまに寄る。
 みまは広い。野宿適地だ。売店をひととおり見て回りレストランへ行く。どうも寒くなってから食欲がすごい。朝10:00。オーバーカロリーを自覚しつつねぎうどんを食する。ほっこりする。
 食事を終えてトイレに行くと座り込む女性がいる。一度無視して通り過ぎたが、お遍路の身で困っている人を見過ごすとはどういう了見だと思い直しトイレへ戻る。別の女性が座り込む女性に声をかけていた。
 反射的に行動にうつせない自分を恥じながら道の駅を辞する。

 遍路道に戻り四十一番札所龍光寺に到着である。
 境内の一番高いところには元札の稲荷神社が建つ。ここは四国稲荷の総本山だ。そのおかげで龍光寺には『稲を背負った老人に出会った弘法大師が稲荷明神像を刻んだことに始まる』という伝承ができている。

 四十二番札所佛木寺(ぶつもくじ)へ向かう。
 遍路道の看板を追って歩き出す。県道31号ぞいに歩けば問題なく佛木寺に着くのだが、看板が示す遍路道は県道からずれていく。しばらく行くと『崩落のため迂回路をご利用ください』という看板に出会う。指示通り迂回路を行く。中山池という人工ため池の西側を通る。中山池の運動公園は野宿適地だ。
 迂回路に遍路看板は無いが『四国のみち』道標は立っている。道標を追って歩いて行くと前を歩く人が見える。お遍路さんかもしれない。後を追いつつ佛木寺に到着する。さきほどのお遍路さんがザックから納経帳を取り出しているところだった。挨拶をして参拝をすます。
 佛木寺門前の休憩所は野宿適地だ。


【歯長峠】
 佛木寺から北へ。次の目的地へは山を一つ越える。山越えの道はトンネルと山道の二つのルートがある。折角歩き遍路をしているので当然ながら山道へ向かう。
 山道目指してハイスピードで歩いて行く。結構な速度で歩いているのだが先ほどの歩き遍路に再開することはなかった。おそらくお遍路さんはトンネルを歩いて四十三番札所へ向かったのだろう。
 遍路看板に導かれ国道31号を左折する。狭い道をどんどん進んでいくと『遍路道一部崩落のため安全に通行できません 迂回路をご利用ください』の看板が現れる。看板が示す迂回路は県道31号へ戻れと言っている。無視して先へ進む。
 いったいどこが崩落地だったのかわからないまま歯長(はなが)峠に到着した。歯長峠は三間町と西予市(旧宇和町)の境界だ。昭和初期までは三間と宇和をつなぐ唯一の生活道だった。
 歯長の地名は巨人伝説に由来する。力は百人力、声は十里四方におよび葉の長さは一寸あまり、東国武将足利又太郎忠綱、又の名を歯長又太郎が源氏に追われ庵を結んだ峠だと伝わる。
 峠にはコンクリートレンガづくりの建物があり中には仏像が祀られている。
 今朝からの雨で眼下の村には雲が流れ込んでいる。雲の上から山々が頭を出す。雲海だ。すばらしい眺めを目に焼き付けて峠を降りる。

 山道沿いには休憩所があり、『歩き遍路専用持ち出し厳禁奥の院資料』が雨風に直接さらされたまま放置されていた。ここまで杜撰な保管状態(そもそも保管されていない)の奥の院資料ファイルは初めて見たしこの後も見なかった。

 峠を降りて車道に合流……しようとしたがなんと遍路道をショベルカーが壊している。何とか渡れる場所を探して歩く。ショベルカーを運転する人と目が合い驚かれる。驚いたのはこっちだっつーの。

 県道31号と合流。肱川を渡り県道29号を右折するのだが、その前に歯長地蔵横東屋で一休みする。
 足摺亀おこしをぼりぼりかじりながら外を見る。亀おこしは美味すぎる。3袋くらい買っておけばよかった。レターパックに入れられそうなので家へのお土産にもよさそうだ。今後見つけたら買おうと思ったが再会は果たせなかった。
 高知で一番うまいものは足摺亀おこしだ。
 そして愛知で一番うまいものは唐饅だ。唐饅は南予の名物だ。直径5センチ、厚さ1センチほどの扁平な形のお菓子である。唐饅は土産物屋や道の駅などで頻繁に見るが値段が高くて手が出せなかった。どこで購入したか忘れたがこの唐饅はお手ごろだったので購入した。これが美味いのである。ぐにゅっとした独特の触感と黒糖の甘み。最高である。もっとたくさんほしい。あと2袋くらい買っておけばよかった。

 雨は強さを増してきた。出ていくのが億劫だがまだ寝る時間でもない。重い腰を上げて先へ進む。


【温泉、ユートピア宇和】
 雨の中を歩き出す。次の目的地は番外札所の『永照寺』だ。永照寺へは県道29号を右折する。四十三番札所へ行く場合は左折する。

 県道29号ぞいに歩いて行くと宇和町の集落を抜ける。そして歩道はだんだん狭くなる。人家がなくなり歩道もなくなったころにトンネルが現れる。マジかよ怖っ……。トンネルを抜けたところで車がひっきりなしに走る車道でありながら歩道はない。一メートルも離れていない場所をトラックがびゅんびゅん走っていく。ストレスだ。叫びながら走り出したい衝動にかられる。体を濡らす冷たい雨もストレスだ。イライラがつのる。もう幕営したい気持ちでいっぱいだ。
 今日の幕営予定地は野村ダムの入り口にあるダム公園である。ダム公園へはまだ徒歩一時間ほどある。すでに歩く気力はなくなっている。どこか幕営できそうな場所は無いかと日切地蔵に寄る。一応候補としてあげておく。
 日切地蔵から県道に戻る。
 地図を見ると近くに温泉があるらしい。『ユートピア宇和』という場所だ。温泉なんて寄らずにさっさと幕営したい気持ち、温泉に浸かって寒い体をゆっくり温めたい気持ちがせめぎあう。温泉に寄ったらその分寝る時間は遅くなる。幕営地に行くまでの道は暗くなる。暗い中歩道なしの車道はかなり危険だ。温泉に入っている場合ではない。論理的に決着をつけようとしたところ、どっちつかずの頭はもう歩きたくないという気持ちに軍配をあげ、足は温泉へ向かうことを選択した。

 果たして私は勝利した。
 県道を離れダムに架かる橋を渡る。霧に包まれた幻想的な湖を眺めつつも内心焦りつつ着いた温泉の敷地内にはゲートボール場があり、なんと東屋があった。野宿適地だ。
 大勝利である。嬉々として近づき重たい荷物を置く。レインウェア、輪袈裟、靴下、濡れた衣服をベンチにかけた。
 今夜はここで幕営だ!!やった!!!温泉でゆっくりあったまったあと歩くことなく寝ることができる!!!!大勝利!!!!!

 すっかり安心して温泉を楽しむ。ユートピア宇和内は休憩所も売店も充実している。
 しょうゆ餅を購入し休憩所で食す。
 しょうゆ餅は米粉と砂糖でもちもちにした生地をなんかひねって正月のこんにゃくみたいな形にしたお菓子だ。これは松山の一六タルトで有名な一六本舗がつくっているしょうゆ餅と同様の見た目だが、ここで食ったしょうゆ餅の味を期待して一六本舗のしょうゆ餅を食うとその不味さに首をひねる。

 休憩所で日記を書きつつのんびりと暗くなるのを待つ。
 暗くなってからあずまやに戻りテントを張る。
 車が温泉の駐車場に来るたびに身をひそめる。辺りは暗いがテントが目立つことを恐れたのでヘッドランプはつけない。
 雨音をききつつ眠りについた。


歩いた距離、歩数
29.46km 42,910歩

つかったお金
ごはん 1,720円
お賽銭 3円
お風呂 500円

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