二十八日目
2020.12.23(水)
行程:道の駅津島→満願寺→馬目木大師→鯨大師→道の駅きさいや広場



【南予遍路道の要、満願寺】
 朝飯はクッカーでつくった袋ラーメン。今朝はベーコンをつっこんだ。袋カット野菜を食べて今日の野菜摂取は完了。
 6:15出発である。暗い中県道4号を北上する。右手にはカッコいい篠山の姿が見える。あそこにも遍路道があるのだ。いつか行きたいが夏場にお遍路はご免被るので一生行く機会はないだろう。

 県道4号を北上し丁字路に行きつくと目の前に満願寺は現れた。
 満願寺。ここは南予遍路道のかなめとされる。篠山道も中道も灘道、どの道を選んでも満願寺を通過していたからだ。しかし中道に関しては前述のとおり宇和島班通行を禁止された。しかも篠山道、灘道を歩くお遍路までも満願寺への巡拝を禁止されてしまった。しかし空海創建の満願寺を巡拝できないのは問題とされ、篠山道、灘道を通るお遍路はほどなく満願寺を巡拝することを許された。それほどに重要な寺と考えられてきた。
 今現在。八十八か所お遍路では満願寺の存在すら知らないお遍路さんが多数だろう。番外札所に興味を持って巡礼するお遍路さんは少ないのだ。八十八か所お遍路生みの親である真念が著書の売り上げをつぎ込んで復興を図った寺だというのに、ちょっと寂しい。


【野井坂越え】
 北へ向かう。
 7:30は小学生の通学時間だ。通学途中の小学生たち、通学路に立つ教員たちに挨拶をしつつ野井川ぞいに県道46号を進んでいく。どんどん集落の奥へ、田舎ゾーンへ入っていく。
 道路両脇の田んぼには稲が伸びる。稲刈後の短く残った稲が再度伸びているのだ。穂先に米粒をつけて垂れている様は二期作ができそうなくらいである。
 農村風景を楽しみながら歩を進める。
 遍路道の看板にそって歩いて行くと道はなんと川を指した。渡渉するようだ……。本当に先に道が続いているのだろうか?まあ、道が無くなったら引き返せばいいだけだ。
 看板に沿って獣道へ歩きだす。道はちゃんと続いており、車道に合流したり山道に入ったりしながら歩いて行く。何度目かの車道合流。そして山道を指す看板。『この先遍路道途中に倒木が多数あります。』の文字。望むところだ。道に迷ったら面白そうな方へ!である。
 ガイドブックには載っていない道だが入ってみる。木々にはお馴染み白地に赤の『遍路道』札がかかる。この札がかかっているうちは道は間違っていないだ。山道をえっちらのぼっていくとプラカードが木に吊ってある。『通行不能×今は通れます』と書いてある。先へ進むと山の斜面をおびただしい数の倒木が埋め尽くしている。倒木で進めなくなった旧正規ルート横を新しく切り拓き迂回路が作成されていた。整備してくれた人に感謝だ。

 ここは『野井坂へんろ道』というそうだ。案内板がある。
 野井坂遍路道は土佐の宿毛と伊予の宇和島を結ぶかつての宿毛街道中道の重要区間だ。江戸初期には篠山道も灘道も満願寺で合流したのち野井坂を越えて宇和島へ向かった。

 どうやら”最も正しい”遍路道を私は歩いていたらしい。お大師様に呼ばれたということだろう。
 どんどん歩を進めると伐採地にたどり着く。木々が切り払われ展望のひらけた場所からは目指す宇和島の海が見えている。ネクストステージ!とつぶやきながら歩を進める。

 山を下りると高速道路の横に出てきた。高速道は16年前のガイドブックには載っていない。
 狭い歩道を歩いていく。カーブミラーに遍路道ステッカーが貼られている。久しぶりにお遍路ステッカーを見た。別格20霊場を示す青いステッカーだ。
 国道56号をがりがり進み宇和島市街地に入った。


【馬目木(まめき)大師・鯨大師】
 狭い路地の奥に入っていくと民家のすぐ横に四方一間くらいのお堂がある。
 『馬目木大師』だ。
 かつて四十番札所観自在寺の奥の院は九島という離れ島にあり船を使わないと参拝できなかった。海を渡って九島まで札を納めるのは不便なので空海は宇和島の船渡し場に遥拝所を設けた。遥拝所に馬目木(ウバメガシのこと)の枝を立て、枝に札を掛けるようにした。その馬目木が根付いて葉が繁るようになった。
 馬目木大師堂は離れ島にあった大師堂を移してきたもので、前述の馬目木にあやかって馬目木大師堂と呼ばれるようになったそうだ。今もウバメガシの木がうわっているそうだがどれがそれやらわからない。
 大師堂の前には『自由にお持ち帰りください』と書かれて銀杏の種が置いてある。荷物を増やしたくないので銀杏はもらわずに参拝だけした。

 ところで『馬目木大師』の説明に出てきた九島の大師堂であるが、実は現存する。
 長い間九島の大師堂は徒歩で行けない唯一の大師堂とされていたが、2016年に九島大橋が開通し、いまでは歩いて行ける大師堂になっているのだ。当然、行くことにする。

 自転車を楽しむ人たちに追い抜かれながら九島を目指す。工業団地めいた場所をぬけて海岸に出る。車道を歩いて行くと海の向こうに島、そして島へ渡る橋が見える。九島大橋だ。
 九島は観光地だ。中央に鳥屋が森という山がそびえる。海岸にはゴジラ岩、モスラ岩などユーモラスな名前の岩があり、二ホンカワウソが最後に発見された場所がある。島はぐるり一周することができ、チャリダーに人気の場所となっている。
 九島大橋を渡ると右へ。島を左回りに歩く。青色が眩しいイソヒヨドリを見つけてきゃっきゃつつ歩いて行く。しばらくすると『鯨大師』の道標が見えてくる。
 これが四十番札所観自在寺奥の院『鯨大師』である。ちなみに篠山神社も観自在寺の奥の院である。

 南国風の木々に囲まれた境内はしかし誰もいないようだ。大師堂の扉はかんぬきで固く閉ざされている。境内から振り返ると宇和島の海がよく見えた。実に雰囲気の良いところだ。

 参拝を終えて宇和島へ戻る。九島から宇和島を眺める。篠山を背負い海を前にし豊かな自然のなかにすっぽり入りこんだ市街地。山あり海あり島あり橋あり街あり。実に要素の多い風景である。
 九島大橋の街灯のてっぺんにはカモメが陣取る。
 宇和島郊外の急斜面には見事なみかん畑が広がる。
 吹いてくる風が暖かく今が冬であることを忘れさせる。
 実に、実に平和だ……。宇和島、とてもいい街だ……。
 

【道の駅みなとオアシスうわじま きさいや広場】
  めちゃめちゃでかい道の駅なのにテントを張る場所がみつからない。野宿不適だ。近くにマクドナルド(充電可能)、ローソン、コインランドリーなどがあり野宿を快適にするインフラは整っているというのに。
 道の駅に入っている店舗は豊富だ。なぜか北海道のロイズが入っており、チョコレートをもとめる人でにぎわっている。テイクアウトのチョコレートソフトクリームをいただくが味は期待外れだった。

 昼飯はマクドナルドに入店。味が濃いだけで旨さもクソもないマクドナルドのハンバーガーも、お遍路中はおいしく感じる。ゆっくり暇をつぶして道の駅に戻る。喫煙所付近でゆっくり日記をつけようとベンチに腰を下ろすと、女性に声をかけられた。かつてお遍路したり山歩きしたりしていたが今は大病を患い大手術をして、歩けないほどに弱りもう死にたいと思ったが、医師に叱咤激励され、リハビリがわりに毎日、家と道の駅を往復しているのだそうだ。ザックを背負う若者を見ると懐かしくなって声をかけるのだという。まだ先へ進むだろうから。引き留めて悪かったね。などと言われてしまうと、いや、道の駅で時間をつぶしてるだけです……などとは言えない。

 なんやかんやで暗くなるまで待って、店舗が閉まるころにテントを張る。
 場所は屋根付き広場のレストラン裏物置横。ここくらいしかテントを張れそうな場所がなかった。
 道の駅に隣接する回転ずし屋へむかう家族連れの目線を感じる。お遍路さんだから許してくれと思いながら眠りについた。


歩いた距離、歩数
32.44km 47,103歩

つかったお金
ごはん 1,916円
お賽銭 5円