杖です。ストックです。

 杖を突くということは宗教上は”ここは私の土地である”と主張する行為と考えられるので山で杖を突くなどけしからん。杖など要らん!山登りを始めた直後のころの私はそのような哲学を持っていました。今ではそのような哲学は捨て去り代わりに杖を持つようになりました。

 山登りに使用するストックの話です。種類もさまざま(横から握るタイプ、上から握るタイプ)、使い方もさまざま(シングルストック、ダブルストック、長さ、地面に突く位置)。どんなものを選んだらいいか、どんな使い方をすればいいか。山登り専門書や山雑誌を読んで参考にしている方もいらっしゃるでしょう。そしてそんな人はこのような経験をしているのではないでしょうか。
「みんな書いてることが違っていて、一体どれが正解なのかわからない」
 肘が90度になる長さにしろ、いや肘が90度になってはいけない、体の真横で突け、いや前に突け、いや後ろに突け、など……書物によって書いてることが違うんですよね。

 でも回答は一つしかありません。結論を先に言いましょう。
 前面の筋肉を使う時は長くして前に突く!
 背面の筋肉を使う時は短くして後ろに突く!
 これだけ覚えておけば大丈夫。

 以下、具体的に説明します。



【山登る時、どこの筋肉使ってますか?】

 山に登る時、どこの筋肉を使ってますか?
 大腿四頭筋でしょうか。大臀筋でしょうか。それとも腓腹筋でしょうか。もちろん筋肉は個々で働いているわけではありませんし登山は全身運動ですし当然どの筋肉も使っています。しかし歩き方には人それぞれ癖があります。人それぞれ筋肉の使い方には違いがあり、そのため筋肉の発達状況もさまざまです。山に登るときに”どの筋肉を特によく使うか”は人によって違うのです。前述の「みんな書いてることが違っていて、一体どれが正解なのかわからない」という問題はそのために発生しています。

 例えば私はあまり筋肉が鍛えられていませんので前面の筋肉(太もも、腹筋)を使うよりも背面の筋肉(尻)を使って登っています。ですから背面の筋肉をフォローする目的でストックを使用します。使い方としては、ストックを短め(100cm)にし、グリップの上に手のひらを乗せるようにして持ち、体の真横より後ろに突きます。そうすることで一番使いたい背面の筋肉をフォローしているわけです。
 逆に下りではストックを前または横に突いています。下りでは背面より前面(太もも、膝、腹筋)の筋肉や体幹の筋肉を使います。ですからそれらの筋肉をフォローできるように突く場所を変えるわけです。

 このように状況によって使い分けます。なので、もちろん登りで前に突くときもあります。段差の大きい場所で太ももを使って体を引き上げようとするときなどは前に突きます。

 前面の筋肉を使う時は長くして前に突く!
 背面の筋肉を使う時は短くして後ろに突く!

 なのです。



【ストックは補助具である】

 ストック、杖はあくまで筋肉の補助として使うのですから、自分が使いたい筋肉を活かせるように使わないと意味がありません。あの本にはこう書いてあったからこう持つのが正しい……ではなく、状況・目的に合わせて持ち方・長さ・突き方を変えるのが正解です。
 速度を出したいときは後ろに突いて加速のために、ザックが重たくて体を支えたいときは長くして前に突く、などなど……。
 単純に、以前に山登った時この長さだったから今回もこれでいいや。ではなく、今どうしたいかを考えて使い方も柔軟に変えていきましょう。

 またストックの本数の問題ですが、ダブルだからと言って安定するわけではありません。状況によってはストックはシングルにし、片手を自由にしておいた方が木や石を持って体を安定させることができるという利点もあるでしょう。ダブルストックで足4本+手0本の状態にするか、シングルストックで足3本+手1本の状態にするか。はたまた足2本+手2本にするか。これも状況によって柔軟に変えていくべきです。

 いろんな使い方を試してみて自分に合った方法を探しましょう。

 道具をうまく使って楽しい登山ライフを!